アンティーク家具の定番でもあるダイニングチェアは、当店の工房でもリペアやメンテナンスのご依頼が多い家具のひとつであり、修理すれば長く使っていける家具のひとつです。
レジデンシャルユースの中でも使用頻度が多いダイニングチェアは、一般的に座面が取り外せるつくりになっています。座面が取り外せる椅子の仕様を「着脱式」あるいは「落とし込み」と呼びますが、これはダイニングチェアならではで、メンテナンスや修理があらかじめやりやすい仕組みとなっています。
そんなところもアンティーク家具の魅力ですね。
比較的座面の張替えがしやすい着脱式のアンティークダイニングチェア。オーク材からウォルナット、マホガニー材のものまでベーシックなタイプからフレンチスタイル、クイーンアン様式などエレガントなものまで多種ご用意。アフターメンテナンスにも対応いたします。
たとえ大事に使っていたとしても、座面のトップカバーの摩耗、中材のクッションのへたり、脚部の傷、持ち手の汚れなど、生活を共にしていく中でどうしても起こる劣化。もし専用の工房にメンテナンスを依頼したらどのように変化するのか? 下の画像で Before と After を並べてみました。
中央のスライダーを移動すると画像が入れ替わりますので、ぜひ見比べてみてください。


落ち着いた印象になったのが伝わるでしょうか?
今回のこのチェア、イギリスからコンテナで運ばれてきた状態からの修理メンテナンスです。クリーニングを施し、皆様にご紹介できる状態にまでもっていきました。建付けはすこぶるよかったので躯体の解体はおこなわずに、座面の張替えと木部表面のメンテナンスをおこないました。とは故、長年使われてきたもの。
一連の修理の解説のあとで、もう一度細かい箇所の Befor と After を並べますので楽しみにしてください。
では、メンテナンスの解説から始めます。
基本のキ!クリーニングで修理スタート
まずは、ブラシやスチールウールを使って、塗装面全体をクリーニングしていきます。なんでも下準備が大事、その後の小傷の補修や仕上げがスムーズに行えるように、外せない大事な作業です。知らない間にこびりついてしまった汚れを専用のクリーナーを使ってきれいに落としていきます。
スチールウールで汚れを落とす際は、木目の流れとスチールウールの繊維の方向が直角になるように角度を合わせ、木目の流れに沿ってブラシやスチールウールを動かします。直角にすることで、木目に詰まった頑固な汚れも “こそいで” 落とすことができます。
背もたれのレリーフは、特に目立つ部分でもありますし、彫った部分に埃が溜まっていますのでしっかりとブラシを当てていきます。手垢や油汚れは、泡に吸着されて落ちます。しっかりとした泡立ちが決め手です。
座面を構成材ごとに分解
続いては、取り外しておいた座面の張替えです。この座面はおそらく、20 年、30 年と張替えをおこなっておらず、トップカバーの生地もすり減り、クッション材もホロホロし、ベルトもヘタった状態でした。まずは、枠材を傷めないように裏の金巾から、トップカバーの生地、クッション、ベルトを丁寧に外し、枠だけにしていきます。
ベルトが緩んでいるとせっかくのクッション材も不安定になってしまい、気持ちよく座ることができません。座った時の荷重を支える最後の要、ベルトの張りも、座面の張替えの大切なポイントです。
座面のトップカバーやクッション、ベルトの交換
先ほど解体した座面は、枠材以外は交換が必要な状態でした。今度は逆に、枠材に新しいベルトを取り付ける作業からスタートです。作業台と座面の枠材を万力を使ってしっかりと固定し、ベルトを取り付けます。ベルトがたわまないようにしっかり引っ張ります。座った時の沈みが少なく、気持ちよく座っていただくための重要な作業です。
細かい部分ではありますが、リペアの一つ一つの作業を正確かつ丁寧におこなうことで、快適かどうかが決まります。
こちらはトップカバーの生地を固定している場面。枠材全体を覆うように、ベルト同様しっかりと引っ張って固定します。今回は起毛した生地を取り付けました。肌触りのよい起毛した生地は落ち着いた光沢があり、とても上品な仕上がりになります。アンティーク家具の木部特有の艶との相性も良く、張替え用の生地としてオススメです。
座面張替え作業の最後には、張り替えた座面を、一度、椅子本体としっかり組み合わせます。張替え作業の間に枠材が歪んでしまって、ガタつきやしないか確認します。座面の歪みもなくしっかりと収まってくれました。座面の張替えをおこなうと、座った時の安心感や弾力がまったく違うものになります。
タッチアップで小傷の補修 バランスが大事
小傷の補修を、塗料や顔料、小筆を使って、タッチアップという技法でおこなっている場面です。
塗装が剥がれてしまい木肌が露出している部分を、細かく塗装して補修します。色ムラのない自然な仕上りを目指して、昔の塗料との色合わせや、重ね塗りの状況を判断し、仕上がりを想像しながら作業していきます。バランスを見るのも大事。家具全体をキレイに同じ色合いにするのでなく、アンティークの良さを活かした程度を見極めていきます。
ワックス掛けで艶のある仕上がりに
塗装面の上からワックスを掛けて仕上げます。ワックスは艶を出す効果以外にも、水や傷から守る効果も持っています。
現行新品の家具では、艶出しや高い耐久性を持つウレタン塗装が施されていることが多いのですが、アンティーク家具は伝統的なポリッシュ(ニス)塗装やラッカー塗装が一般的です。これらの塗装は、ウレタン塗装と比べて耐久性が高くありませんが、塗装の上からワックスをかけることで耐久性を高めます。
(なので、たまに、ワックス掛けをしてあげてください)
アンティーク家具特有の質感はこの伝統的な塗装、仕上げからきています。また、剥離や塗装をしやすいなど、長年使い続けるためには最適な塗装といえるでしょう。
細かい箇所の Befor と After
生地が擦り切れ、クッションがへたっている座面が・・・


長年、おそらくもダイニングでの使用によって、トップカバーの擦り切れや中間材のクッションがへたり、ごつごつして固く、座り心地が悪い状態になっていましたが、生地の張替え、クッション材の交換、座面を支えるベルトの交換といった修理で、右側の After の写真からも伝わるように、座面に張りや弾力性が伺えるようになりました。
塗装が剥がれ、傷だらけの脚部分が・・・


毎日、テーブルから引き出されたり戻したりしてできてしまったでしょう脚部分の擦り傷は、基本的にクリーニングにタッチアップ、そしてワックスで仕上げました。左側の Before の写真では、経年変化による小傷が目立っていますが、仕上げ後は傷も目立たなくなり、アンティーク家具らしい艶が戻っています。
全体に塗装を施したわけではありませんが、クリーニングとタッチアップ、ワックス掛けを丁寧に行うことで、見違えるような仕上がりとなりました。
基本的なメンテナンスだけですが、全体のバランスが良くなったかと思います。当店の工房では、アンティークチェアにおいては古い塗装の剥離、全体の塗装をやり直すこともできますが、もちろん新品のような仕上がりになってしまい、アンティークの良さを損ねてしまうのではないかと考えます。しかもリペア費用は高額です。
アンティーク家具の修理は、自社工房を備える当店にご相談
専用のリペア工房を備える当店では、これまで数多くのアンティーク家具を修理してきました。イギリスを中心としたヨーロッパでの買い付けを長年続け、コンテナで運ばれてきたアンティーク家具を自社工房にて修理し、現在では 11 店舗ある、アンティークの専門店 THE GLOBE とライフスタイルショップの OLD FRIEND で販売し続けています。
アンティーク家具やヴィンテージ家具は様式や状態によってさまざまな異なる修理方法があります。幅広い選択肢の中から、お客様の家具に合った適切な修理方法を見極めるのはプロの家具職人でないとなかなか難しい。アンティーク家具、ヴィンテージ家具のお手入れをお考えの際は、是非、当店にご相談ください。
自社の家具職人が修理を担当しております。チェアの座面が破れてしまったり、キズがついてしまったりと、アンティーク家具・ヴィンテージ家具の様々なリペアに対応いたしております。お見積りは無料ですので、お気軽にご相談ください。